予知保全におけるIoT-モノのインターネットの活⽤

予知保全におけるIoT-モノのインターネットの活⽤

1.はじめに
予知保全とは何か︖

予知保全とは、センサーなどの監視システムから集めたデータを機械学習で分析し、設備の故障や不具合を未然に防ぐことである。予知保全では、インダストリアルIoT (IIoT)とビッグデータを利⽤し、設備の振動、温度、電圧などのデータをセンサーで測定する。測定結果を元に機械学習アルゴリズムで部品の摩耗を検出し、ダウンタイムを最⼩限に抑えるためにどのような対応が必要か決定する。精度の高いデータと適切なアルゴリズムで数か月先までの故障を的確に予測できる。
予知保全の⽬的は次のとおり。

  • 予期しないダウンタイムを減らし、設備の稼働時間を最⼤限にする
  • 保守にかかる時間を最適化し、運転コストを削減する
  • 保守にかかるコストを削減する
  • 作業員の安全性を⾼める
  • 全体の⽣産性を⾼める

1-1 保全の種類


第1図 保全の種類と修理費・保守費の相関

 

保全は次の3種類に分けられる。

(1)事後保全:故障を修理し運転設備を正常に機能する状態に戻す。
(2)予防保全:故障の発⽣を低減させるための⽇常的な保守。
(3)予知保全:運転パラメータに基づき、いつどのように保守業務を実施するか決定。

故障が発⽣してから保守作業に取りかかる事後保全では、ダウンタイムが⻑期化して⽣産性が低下し、作業員の安全性が脅かされる場合もある。予防保全は事後保全より⼀歩踏み込んでいるが、事後保全よりもコストがかかり本来は不要な場合もある。たとえば、ベアリングやシャフトなど使⽤頻度が⾼い部品の保全間隔が決まっていると、その部品が劣化していない場合は、不要なダウンタイムとなり、設備の稼働時間が短くなり、コストが増加する。予知保全は、設備の状態を継続して監視することで不要なコストとダウンタイムを回避することを⽬的としている。

1-2 予防保全と予知保全
予防保全と予知保全の最⼤の違いは、状態監視システムの利用である。予防保全では、部品メーカーなど第三者による耐久テストの結果に基づいて、保守を実施する時期を決める。一方、予知保全では、状態監視システムで集めたデータを分析し、保守を実施する必要があるかどうか、時期と⽅法を決める。さらに、このデータを活⽤し、稼働時間、作業員の安全性、⽣産性を最⼤限に⾼めるために、運転プロセスと⼿順をどのように変更すべきか検討することもできる。

2. 予知保全とスマート設備管理

第2図 設備分析により有効性と効率性を調整

 

スマート設備管理では、機械、ツール、および作業員から取得したデジタルデータを使⽤して、パフォーマンス、効率性、コスト、安全性を最⼤限に⾼める。⽯油化学や鉱業などの設備集約型産業では、設備のパフォーマンスをどれだけ向上できるかが収益に直接影響する。スマート設備管理を使⽤する企業では、設備に関する重要なデータを取得できるようになり、次のようなメリットが得られる。

  • 位置、使⽤状況、稼働時間/ダウンタイムを追跡
  • 設備の寿命が延びることで投資利益率が向上
  • 保守業務を最⼩限に抑えることで保守のコストを削減
  • ワークフローを監視し組織全体の効率を向上
  • 故障を減らし作業員の安全性を⾼める

3. 予知保全とインダストリ 4.0 – 成果とパラダイム
予知保全は、⾃動化とスマート設備管理を使⽤して全体の⽣産性を向上させるインダストリ4.0 の重要な要素である。インダストリ3.0では、設備の電⼦化が実装されたが、インダストリ4.0ではこれらの設備から⽣成されたスマートデータが利⽤、共有される。

3-1 ビッグデータとIIoT
(1) ビッグデータ
ビッグデータとは、膨⼤なデータセットを元に予測分析をして値を予測することである。スマート設備とコンピュータ処理によって膨⼤な量のデータが作成されるが、このデータをキャプチャ、保存、識別、分析する能⼒がなければ、データの価値はない。膨⼤なデータを⼈⼯知能や機械学習などで分析することによってパターンとトレンドを明らかにすることができ、設備の将来の使⽤を調整できるようになる。

(2) インダストリアルIoT(IIoT)
インダストリアル IoTとは、センサーなどのスマートデバイスを使⽤して、製造プロセスや産業プロセスの様々なデータを収集することである。収集されるデータには、振動から温度やノイズに⾄るまであらゆる要素が含まれる。これらのデータが収集され、中央ハブに送信され保存される。
ビッグデータとIIoTは、インダストリ4.0の中核をなす2つの要素である。IIoTが情報を収集し、ビッグデータがそれを分析に使⽤する。この技術により、設備の継続した監視と評価、ダウンタイムの抑制、故障リスクの軽減、⽣産性の向上が実現されるため、予知保全が可能となる。

3-2状態監視装置
予知保全では、IIoTに接続された状態監視装置を使⽤して、設備のパフォーマンスと現在の状態に関するデータが収集される。状態監視装置には、以下のようなツールが含まれる。

  • 振動モニタ
  • タコメータ
  • 温度計
  • 湿度計
  • 位相回転メータ
  • デシベルメータ

使⽤される装置は業界によって異なるが、予知保全で使⽤する全デバイスに、データをCMMS(後述)に報告する機能が必要である。CMMSは、受け取ったデータを分析して、必要な保守スケジュールを決定する。

3‐3 CMMS

第3図 CMMSの構成例

 

設備保全管理システム (CMMS – computerised maintenance management system) は、運転と保全に関する情報を体系化して制御するソフトウェアである。CMMSには、スマート設備に接続されている多くのセンサーによって共有されたすべての情報が格納される。このため、保全技術者と他のソフトウェアシステムは、この情報にすぐにアクセスできる。CMMSソフトウェアには、予知保全に必要な以下の機能が⽤意されている。

  • データの収集と体系化
  • 警告と作業指⽰の⽣成
  • データの解釈と報告

4.予知保全の壁

第4図 予知保全への段階

 

予知保全を採⽤することで、組織はコストの削減、⽣産性の向上、運転能⼒と作業員の安全に対するリスクの軽減が可能となるが、予知保全へ移⾏する過程において生じる可能性がある問題をあらかじめ理解する必要がある。

4-1標準の⽋如
予知保全を導入する際に障害となるのが、スマート設備が標準化されていないことである。予知保全は新しい技術のため、ソフトウェア標準や企業におけるデータ処理⽅法の標準化などの課題がある。
スマート設備は多様な要素で構成されており、ベンダー固有のツールやソフトウェアが組み込まれていることもある。これらのツールとそのソフトウェアは、企業のデータ管理システムや予知保全ソフトウェアとやり取りする必要がある。しかし、これらの技術の多くが特注のソリューションとして開発されているため、予知保全を導入する際に障害となりうる。
同様に、予知保全のために独⾃のデータガバナンス、データ管理、安全、⽣産性に関する標準を開発する必要がある。予知保全ソリューションの導入の際には、既存の標準を徹底的に見直して検討する必要がある。
標準の作成は簡単なことではないが、作業員と⽣産性に対するリスクを軽減するためには、標準の重要性を十分認識する必要がある。予防保全のために導⼊された古い標準を予知保全に使⽤すると、⽣産性が低下したり、最悪の場合は不要なダウンタイムが発⽣し、⾼額な修理が必要になり、⽣産性が損なわれる恐れがある。同様に保守業務が⼗分に⾏われなかった場合、作業員の安全性が脅かされる可能性がある。機械が故障したり、作業員が危険にさらされたりする。人と機械のコラボレーションが普及するにつれて、生産的で安全な環境で両方が機能できるようにするために、ビジネスリーダーシップが必要である。

4-2 人と⽂化
新しいツールや⼿順、プロセスを導入する際には、現場の作業員に適切なトレーニングを提供することが重要である。特に予知保全のような複雑な⼿法を導⼊する場合は、作業員のスキルアップが課題となる。最初に予防保全の⼿順と指標を最大するなど簡単な手順から実行すると移行がスムーズになる。また、質の⾼いCMMSソリューションにより、保守担当者のトレーニングとスキルを追跡することで落ちこぼれを防止できる。
新しいソリューションを導入する際に最も問題になるのは、作業員の技能ではなく、ソリューションを導入したことによる環境の変化である。作業員は、新しい技術が導⼊されれば⾃分の役割が変わると考えたり、新しい技術に⾃分の役割を奪われるかもしれないと心配する。それを解消する最善の⽅法は、作業員がその変化の関係者であり積極的な関与が求められていることを伝え、変化における重要な役割を作業員に与えることである。こうした取り組みを繰り返すことで、組織内の変化は作業員の仕事を奪うためではなく、ワークフローを改良し、作業員の安全性と⽣産性を向上するためであることを作業員が理解するようになる。改⾰を積極的に受け⼊れる⽂化が確⽴し、問題に直⾯しても柔軟に対応できるようになる。これは、保全ツールの導⼊以外でも、あらゆるビジネスに効果的なアプローチである。

4-3コスト
予知保全システムの導⼊にはコストがかかる場合がある。エンジニアリング分野の企業は数⼗年前の機器を使い続けていることがあり、スマート設備に置き換える (または、既存の設備をスマート技術でアップグレードする) と、そのコストが問題となる可能性がある。しかし、ウォールストリートジャーナルによると、予定外のダウンタイムが製造業にもたらす損害は年間500億ドルにも達し、ゼネラルエレクトリック社では、予定外のシャットダウンが⽯油・ガス会社にもたらす損害は年間4,200万ドル、最悪の場合は8,800万ドルにものぼると述べている。

第5図 保守作業とプロセスのフロー

 

上図のフローの各段階で、技術だけでなく作業員とプロセスの徹底的な⾒直しにも投資する必要がある。
⽶国エネルギー省が公開したデータでは、予知保全を導⼊すると以下のような利益が⾒込まれる。

  • 保守コストが20〜30%削減
  • 故障の発⽣率が70〜75%低下
  • 設備のダウンタイムが35〜40%短縮
  • ⽣産性が20〜25%向上

予知保全により⻑期にわたって得られるこれらの利益を踏まえて適切な初期投資を検討したい。

5.予知保全:どこから始めるか?
予知保全プログラムを一から始めることは簡単ではないが、多くの組織は予防保全の⼿順、プロセス、ソフトウェア、機器の一部をすでに備えている。予知保全の導⼊にあたり、最初にすることは既存の予防保全の強化である。

<注⽬すべき指標>
CMMSを活⽤すると、保守に関する統計を追跡し分析することができる。現在の保守作業にかかる時間をあらかじめ把握しておくと、どれくらい改善されたか確認できる。注⽬すべき保守指標は次の3つである。
(1) 平均修理時間
この指標は、故障が発⽣した設備を作業員/技術者が修理を完了するまでにかかった時間の平均を⽰す。平均修理時間は、作業員が以下の作業を実⾏するための機器のダウンタイムの時間を⽰す。

  • 機器の故障に気づく
  • 問題の診断/トラブルシューティングを⾏う
  • 修理する
  • 機器を再度組み⽴てる
  • 機器を調整/検査する (必要に応じ)
  • 機器をテストする

平均修理時間は、設備の稼働時間を最⼤限にすることに重点を置いた指標である。設備が機能しなくなると、⽣産性が低下し多くの時間が無駄になる。設備が故障し修理が必要になると、作業員の安全性が危険にさらされる可能性がある。この指標を把握するには、事後保全が必要であることに注意したい。予防保全と予知保全にとってもこの指標は重要であるが、頻繁に使⽤されるべきではない。

(2) 平均故障間隔
この指標は、故障から次の故障までの設備の稼働時間を測定したものである。平均故障間隔には、予防保全のための計画的な停⽌、検査や再調整にかかる時間は含まれない。設備の平均故障間隔は、できる限り長くする必要がある。
多くのベンダーは、⾃社製品の推定平均故障間隔を提供しているが、多くの場合、その数値は実験室でのテスト結果であり、実際の使⽤時には参考にならないことがある。また、⼈的要因もある。つまり、作業員による誤操作、不正なメンテナンス、不完全な修理が原因で機器が故障することがある。

(3) 総合設備効率
総合設備効率では、可動率、性能、および品質が測定される。

  • 可動率:機器が正常に稼働している時間を表す。機器の故障、アイドルタイム、停⽌が発⽣するとこの数値は低下する。可動率を向上させるには、適切な予防保全を⾏い、作業員に正しいトレーニングを提供して、効率を向上させる。
  • 性能:システムのスループットと最⼤可能スループットを⽐較した指標。⾮効率な作業プロセス、適切に実施されなかった保守、古いシステムは数値の低下を招く。性能を向上させるには、適切な手順のメンテナンス、効率的な作業プロセス、新しい機器への変更が必要。
  • 品質:⽣産された使⽤可能ユニットの数と始動したユニットの数とを⽐較した数値。適切なメンテナンスが⾏われなかった機器、不適切な調整や故障によりこの数値が低下する。機器のメンテナンスと調整により品質が向上する。

総合設備効率を測定すると、システム全体の⽣産性を把握することができる。効率を⽰す数値が⾼ければ、機械が使⽤可能で効果的な状態にあることを⽰している。その一方、数値が低い場合は、メンテナンス⼿順の精査や、作業員のさらなるトレーニング、あるいは古い機器の交換の検討が必要である。これが組織のメンテナンスインフラストラクチャの健全性の指標の一つでもあり、注目すべき指標である。

6.予知保全の機械学習:データサイロの解消
データサイロは、孤⽴し、固定されたデータリポジトリであり、通常は、1つの部⾨が管理している。例えば、購買部⾨とエンジニアリング部⾨がそれぞれ独⾃の場所にデータを保存し、それぞれが連携していなければ、両者はサイロ化したデータを所有していると言える。データがサイロ化されると、業務と情報の活⽤に問題が⽣じ、予知保全の導入は困難になる。経営層は、強いガバナンスとポリシーにより、データのサイロ化を解消する必要がある。

6-1 データガバナンス
データのサイロ化の解消に最も有効なツールは、データガバナンスソリューションである。データガバナンスは、組織のデータの監視と意思決定に関連するシステムと理念である。データガバナンスを計画する際には、組織の各部⾨が連携してデータを管理できるようにするための戦略を管理するフレームワークを構築する必要がある。また、データガバナンス計画を導入するには、データの統合、ポリシーと⼿順の強化と追跡、および品質の指標と規制の遵守を支援する⾼度なソフトウェアが必要である。

6-2 情報管理
データガバナンスと同様に、情報ガバナンスでは組織の情報を⾼いレベルで管理する必要がある。データガバナンスほど具体的ではないが、情報ガバナンスは、組織が作成する全情報の管理に関連するシステムと理念を表す包括的な⽤語である。情報ガバナンスには、記録の保管、経営構造、コンプライアンス、管理戦略、およびリスクポリシーが含まれる。正式で具体的な情報ガバナンスシステムがないと、適切なデータガバナンスを実装できず、データのサイロ化が継続する。

7.予知保全ツールとソフトウェア
予知保全ではIIoTとビッグデータが活⽤される。このため、作業員から経営層に⾄るまで関係者全員が、データ主導の企業で業務にあたるために必要なテクノロジーツールを持つこと、およびトレーニングを受けることが必須である。

7-1 トレーニングと⽂化
すべての作業員は、予知保全の実現に必要なツールとソフトウェアの適切なトレーニングを受ける必要がある。すべての作業員が⾃⾝の役割を⼗分に果たすための知識とスキルを習得できるトレーニングプログラムを作成すると、予知保全への移⾏がスムーズになるだけでなく、企業の柔軟性と適応力も向上する。技術的なソリューション (データガバナンスソフトウェア、CMMSなど) を組織に組み込むことで、文化はオープンになり、情報集約型環境への変化を受け入れやすくなる。

7-2 運転管理ソフトウェア
組織の⽇常業務を改善するには、運転管理ソフトウェアが有効である。業務を合理化するソフトウェアは、すべて運転管理ソフトウェアであると⾒なすことができる。運転管理ソフトウェアは、業務のあらゆるレベルにおいて、効率向上に有効である。業務の効率を向上させるには、意思決定分析、サプライチェーン管理、スケジューリング、品質管理などのいくつかのメカニズムが必要である。通常、このソフトウェアでは予知保全は実装されないが、これは組織が予知保全のメリットを最⼤限に活⽤するために不可⽋なツールであり、すべての組織が導⼊すべきである。

8.おわりに
今⽇の産業組織では、かつてないほど情報が重視されている。スマートツール、統計分析、および指標が企業を次世代のインダストリ4.0に押し上げた。これらの技術を積極的に活⽤しない組織は、その可能性を逃し時代から取り残される。

予知保全を導⼊すると、⽣産性と安全性が向上し、運転と保守が合理化され、競争上の優位性を得ることができる。コストを削減する⼀⽅で、設備の稼働時間を最⼤限に延長し、修理までの時間を短縮し、全体の効率を向上させる能⼒は、現代の企業には不可⽋である。そのためには、データを⾃由にやり取りできるソフトウェアとスマート設備を使⽤して運転を改善する必要がある。多くの企業にとって予知保全の導入への道のりは険しいものの、適切なパートナーとともに、情報管理、データガバナンスと⽂化に取り組むことで予知保全の導入を達成できるであろう。

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